キツネの話 

キツネに化かされたという話は、市内に実に数多く残っている。そのなかの一つ、二つを紹介する。

            

ある時、佐野の天明市の帰り、村人が油あげと魚を買って帰ると、突然目の前が深い深い川となってしまった。驚きあわてた村人は、手に持った油揚げと魚を投げ出して、着物の裾をまくり上げ「深い深い」と水の中でもがいた。

 一方、同じ天明市からの帰り道を急いでいた村人が、ソバ畑の中で「深い深い」とわめいている男を見つけた。かの男は、キツネの好物の油あげと魚をもっていたばかりに化かされたのであった。

 ある夕方のこと、村人が仕事の帰りに、渡良瀬川の土手を見ると夕もやの中に十を越す黄色い光が動いていた。彼は、キツネの嫁入りを見たのである。

                   

 この地方ではキツネをオトカとよび、このような現象をオトカ様の嫁入りとよんでいる。また、キツネがあぶくをふくと明るく見えるという俗信がある。

                                      (佐野市史「民俗編」より)

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