家から海まで〜限りなき挑戦〜
ぶらり旅一発目はこの話から行きましょう。
愛車紹介でも書いていますが、私が自転車で海まで行った話です。
確か二年前の九月だったと思います。
当時折り畳み形のマウンテンバイクに乗っていた私が、会社の先輩の「自転車で海まで行こうとしたけどダメだった」という話を聞いて、だったら自分でやってみよう、と思ったのがきっかけでした。
きっかけがそんな物ですから、もうかなり舐めきってましたね。
「チョット朝早く出かければ平気だろう」、「なんかあったら途中で買えば良いや」などと、まるで旅行前夜です。
まぁそんな心構えですから、すんなり行く筈もありません。
それでは、当時の事を思い出しながら、順を追って説明していく事にしましょう。
〜早朝 出発から初ゴケまで〜
かなり早い時間に沢山目覚ましをかけていたにもかかわらず、朝起きたのは目覚ましがなる前。
朝の二時半。
ブッチャケ深夜です。
かなりビックリしましたが二度寝はせず、そのまま風呂へ。
風呂でばっちり目を覚ますと、朝食?を取り、早速出発する事にしました。
外は当然真っ暗。
前途多難です。
でも当時の馬鹿だった私はかなりのハイテンションです。
「くっくっく。Tさんでさえ成し得なかった偉業を達成するのだ」
などとかなりアレな発言をかましつつ颯爽と旅立ちます。
この時、三時チョット前だったと記憶しています。
暗闇の中街灯の下を走り出します。
当然車なんか通りません。
「ひゃっほーう!!」とばかりに飛ばします。
よせば良いのに、わざわざ少し遠回りして、上り坂を登ったりしました。
そんなこんなで気持ちよく走っていたわけですが、五キロほど走って街灯のない道に出たとき、すぐに異変に気付きました。
暗いんです。すごく。
走りながらライトを確認してみると、どうやら位置が微妙にずれているらしく、足元を照らしていなかったのです。
でもそこはそれ。
アホ化してテンションMAXの私。
まあいいやとそのまま走りました。
・・・・さらにスピードを上げて。
そうなると当然お約束の展開。
足元の縁石に正面衝突。
一回転(たぶん)して墜落する私。
出発して十分ほどでズボンと服に穴が開きました。
痛い体を引きずりながらも、外れたチェーンとライトの位置を直す私に、先ほどまでの元気はすっかり無くなってしまいました。
これからどうしようかな、なんて考えた位ですから。
しかし、いくらなんでも出発して五キロでリタイヤなんて恥ずかしすぎるし、もう前日に件の先輩には自転車で海に行く事は伝えていたので、
「どうだった?」
「開始十分でKOッス!」
なんて、口が裂けても言えなかったのです。
そんな訳で、渋々運転再開。
今思えば、この時引き返していればよかった・・・
〜そして二度目の転倒まで〜
それからは順調に距離を稼ぎ、主要国道のあるO市に着いた時は午前四時三十分チョイ過ぎ。
三十キロほどを一時間三十分ですからまあまあのペースですね。
後はこの道をM市までひたすら真っ直ぐなので気分的にはかなり楽になりました。
まぁ結局はその楽観論が悪かったのでしょう。
昔からすぐに調子に乗る私は、このときもまた調子に乗ってしまいました。
アホ化再びです。
「よーし、この長い直線で最高速度のレコードを更新してやるぜ。レディ・・・GO!」
とばかりに突然のスプリント。
まだまだ先は長いのに目先の目的に囚われたアホが一匹。
当時の私の自転車についていたサイクルコンピューターは過去の最高速度も記録する事が出来たので、普段出かけるときもちょくちょくやっていた事ではあったのですが、薄暗い道でこんな馬鹿な事をやる人間は稀でしょう。
当然足元なんか見ちゃいません。
もう目はメーターに釘付けです。
・・・足元の縁石に気付かないほどに。
メーター読み時速四十キロを超えるか超えないかの所だったと思いますが、突然の衝撃と腕と背中に走る痛み。
見事なまでの転倒。
あまりに見事すぎて、状況確認が追いつかないくらいでした。
人はもちろん、自転車も相当激しく吹っ飛んだらしく、明後日の方向で撃沈。
近くに誰もいなかったのがせめてもの救いでした。
しかし、このときの私はどういう訳かもう帰ろうって気にならなかったんですよね。
一度目よりはるかに痛い思いをしたのに、今でも不思議なんですけど・・・
ぐるりと半周回ってしまったハンドルを元に戻し、吹っ飛んでしまったライトを装着。
前後のタイヤを調べて、パンクしていないのを確認するとすぐに出発しました。
今思い出してもすげー冷静だなぁ、なんて思いますけど、たぶん意地も半分入ってましたね。
ここまで来て止められるか、と。
こういう所は自分の数少ない誇れるところだと、自分では思っています。
・・・それにしても、マウンテンバイクのタイヤってホント頑丈ですよねぇ。
〜そして県境〜
限界はすぐにやってきました。
まぁ当然といえば当然なんですが。
あそこはO市か、もしくはT市の入り口だったと思いますが、コンビニで出発してから初めての休憩を取りました。
車輪止めに腰掛けた私の目に映るのは、うっすらと明るくなった空。
時間はようやく五時を過ぎ、ちょろちょろ人も見えるようになりました。
まぁダンプの運ちゃんとかですが。
でもいつまでも休んでいても仕方ないので、そのコンビニでエネルギー回復の為の食事と水分を購入するとすぐに出発。
当然ペースは大幅ダウン。
それでも何とかT市を抜け、U市を抜け・・空が完全に明るくなった頃、ようやく隣のI県の看板。
ここまでおよそ七十キロ。
全体の四分の一を通過した瞬間でした。
〜M市到着。でもここ何処?〜
そこからはもう休憩の嵐。
コンビニ見るたび休憩です。
お陰で時間はどんどん過ぎて、K市に入る頃には車の通りもかなりのものでした。
まぁひたすら道を真っ直ぐ進めば良いだけだったので精神的な負担はなかったんですが、肉体的な負担はかなりのものでした。
体力もさることながら、二度の転倒で負った負傷が思いのほか効いてきたんですよね。
特に県境を越えるときに通った長い坂道がきつかった。
それでも黙々と走り続け、ようやくM市到着。
ここで約九十キロ。
ここまでくればあと少しです。
目指すはO町。
そこまで後二十キロの道のりです。
ただひとつ気を付けなければいけないのは、今まで一本だった道がここで分かれてしまうと言う所。
逸る気持ちを抑えつつ、気をつけて、気をつけて・・・・やっぱり迷いました(涙)
てゆうかここ何処?
携帯で地図を見ようとしてビックリ。
ずっとナビモードにしていたせいで、電池終〜了〜♪
がっくりと肩を落とし、取り敢えず近くのコンビニへ。
そこで充電器を購入したついでに食料と水を購入。
早速携帯に充電器をさしたんですが、すぐに電池切れのアラームがなってしまい、当分使えないもよう。
仕方がないので、知ってる道を探してペダルを漕ぎ出すのでした。
〜運命の二択 その答え〜
意外に早く知ってる道にはたどり着きました。
標識の距離を信じるならば、ロスした距離は二キロ程のようでほっと一息。
ここからはひたすら真っ直ぐの道。
俄然やる気が・・・でない。
さすがに疲れすぎました。
しかし標識ではO町まであと八キロ。
でも・・・八キロでもきつい。
この後帰りのことまで考えると一キロでも減らしたい。
でも海を見るまで帰れない。
そんな時私の目に飛び込んできた『←A町』の看板。
A町はO町と同じ海に隣接する町で、以前バイクで言ったことがあるのを思い出しました。
私の記憶が正しければ、O町よりは近い筈。
そう結論付けると迷わず左折。
それこそが、私のこの旅においての最大の間違いだったと気付くのはその三十分後のこと・・・・
〜ああ、勘違い でも海は広かった〜
失敗した。
気付いたときにはときすでに遅く、左折してからもう十キロ以上走っているのに海は無し。
もうすでに体力は限界。
メーターに映る距離はすでに百二十キロ。
時計の針も十一時を当に過ぎ・・・それでも必死になって海を探すわけです。
そんな時に目に映る海浜公園の看板。
もう少しだと、力を振り絞る私。
そして到着する海の無い海浜公園。
・・・海辺にあるから海浜公園なんじゃないのかよ!!(マジギレ)
叫んでもしょうがない事を叫ぶあたり、かなり追い詰められてます。
いろんな意味で。
でもなんだかんだ言っても結局は到着はするんですけどね。
長い上り坂を登りきり、(この時、ここで交通整理をしていた警備員さんの「頑張れ!もう少しだ!」の励ましは多分一生忘れません)眼前に広がった光景の何とすばらしい事か。
以前来た時と同じ光景の筈なのにぜんぜん違ったものに見えました。
これが漫画やアニメの登場人物なら感動のあまりスタミナ回復といくのでしょうが、如何せん当方普通人ゆえ、疲労はそのままでした。
ともかく海に着いて初めにしたことは砂浜に突っ伏す事でした。
移動距離百二十八キロ。時間にして八時間四十分の折り返しでした。
〜そして帰り道〜
二十分ほど寝転がった後、すぐに出発。
本当はもっと堪能したかったのですが、きたときかかった時間を考えればゆっくりしていられません。
取り敢えず先輩に到着メールを送った後、何通かやり取りし帰路に着きました。
帰りは来た道を戻るだけなので安心です。
問題は一度迷ったところですがこちらから行く分には問題ないと判断。
コンビニがあるたびに休憩するスタンスは変わりなく、ゆっくりとしたスピードながらも問題なく消化。
けつの痛みに耐え何とかM市まで。
ところがここで急に気持ち悪くなってしまったんです。
取り敢えずM市とK市の境にある旅の駅で三十分ほど休んだんですが、一向に良くならず。
でもいつまでも休んでられないので、無理をして出発する事に。
この選択が後の悲劇を呼ぶとは気付かずに・・・
〜初めての○○○〜
症状は悪くなる一方。
取り敢えず水分だけでもと取ったものも全部吐く始末。
もう胃の中は空っぽ。
何も受け付けず、体も動かなくなってくる。
それでも帰る為にペダルはこぎ続けるわけです。
K市からS市に入る頃にはついに汗もかかなくなりました。
ここに来てようやく自分の体に起こっている異常の正体に気付くことになりました。
『熱中症』
ボーとした頭で取り敢えずどうするか考えます。
救急車を呼ぼうかとも考えました。
でもさすがにそこまではと考え直し、取り敢えず日が沈むまで日陰で休む事にしました。
幸い近くに河原があり、日陰には事欠きませんでしたから。
そしてそれから二時間ほど日陰で苦しむ事になるのです・・・
〜取り敢えずの力〜
日が沈んで少しした頃、ようやく少し動けるようになったのを確認すると、再び自転車で走り出しました。
途中でコンビニにより、食料と水分を補強。
今度は吐くことなく食べる事が出来、ほっと一息。
心なしか少し体力が回復したような気もしました。
今までよりさらにスピードを落とし、もう時間は気にせずとにかく無理せず帰ることにしました。
少しでも気分が悪くなればすぐに降りて休憩し、水分は過剰なまでに取るようにもしました。
ハッキリ言ってこの時動けていたのも、取り敢えずの力だと分かっていたので、少しでも体力の消費しない走行スタイルに切り替えました。
そうまでしてでも自分の力だけで帰る事。
それが自分の選んだ選択でした。
〜自分の町 そして我が家へ〜
もう車もほとんど通っていません。
人通りの無い道を通るのはフラフラ走る馬鹿野郎一人だけです。
ようやく入る事の出来た自分の町に着いたときには、どうして自転車に乗り続けられるのか不思議なくらいでした。
帰りは少し道を変えました。
行くときはわざわざ遠回りをして上り坂を登りましたが、その時にはもうそんな体力残ってませんでしたから。
よく知った道を走り、よく知った交差点を渡る。
そして良く知った家を見たときは・・・海を見たとき以上のものがこみ上げるのを感じました。
自転車を置き、メーターを確認した後、家に入りながら思った事は、取り敢えず今日はもう寝ようという事でした。
総移動距離二百五十五キロ。走行時間二十二時間五十分の旅はこうして終了しました。
(07.9.29著)